ビットコインキャッシュとは
ビットコインキャッシュ(単位: BCH )※は 2017 年 8 月にビットコインからハードフォークして誕生した暗号資産(仮想通貨)です。
2017 年当時、ビットコインの需要が急増したことを受け、送金速度が遅延したり手数料が高騰していました。このような事態に危機感を抱き、ビットコインの利便性を高めるため中心的なコミュニティとは別に開発を行うコミュニティが発足し、ビットコインキャッシュが誕生しました。
ハードフォークはもともと、ブロックチェーンのプロトコルに規定された検証規則を変更するアップデートのことを指します。ビットコインキャッシュのように、開発者の間で意見が分かれた場合、本来は一つのコミュニティによって支えられていた通貨が二つに分裂し、それぞれが別の通貨として支持を集めたり開発が行われたりする事態に発展する可能性もあります。
※当社サービスにおけるビットコインキャッシュ(BCH)は Bitcoin Cash Node(BCHN)を指します。
ビットコインキャッシュの仕組み
ビットコインキャッシュはビットコインと同様、Proof of Work (略称: PoW、プルーフ・オブ・ワーク)を採用しています。発行上限は 2,100 万枚で、 4 年に 1 度の半減期が設定されています。ビットコインキャッシュの発行はマイニングによって行われ、2020 年時点のマイニング報酬は 6.25 BCH です。
一方、ブロックサイズはビットコインと大きく異なります。ビットコインのブロックサイズが 1 MB であるのに対し、ビットコインキャッシュは 32 MB に設定されています。ブロックサイズの大きいビットコインキャッシュは一度により多くの取引を処理することができます。
ビットコインキャッシュ誕生の経緯
スケーラビリティ問題
ビットコインの送金にかかる手数料は固定された料金体系ではなく、ビットコイン全体の取引量などによって流動的に変化します。
銀行などの送金サービスは送金額によって手数料が変わりますが、ビットコインの送金にかかる手数料は取引データ(トランザクション)の大小によって決定されます。つまり、 100 BTC もしくは 0.01 BTC どちらを送金する場合でも取引データの大きさが同じであれば、同じ手数料で送金可能です。
ビットコインの運用が始まった 2009 年当初の手数料はほぼ無料と言える水準で問題なく送金を行うことができました。しかし、 2014 年あたりからビットコインの認知度も高まり、利用者が急増していくと同時に手数料の上昇と送金時間の遅延が発生するようになりました。
このような事態が発生した背景には、ビットコインが一度に処理できる取引データの容量(ブロックサイズ)が 1 MB に制限されていることと高い手数料が支払われた取引データほど早く承認されるように設計されていることが関係しています。
つまり 2014 年あたりから 1 MBという容量に対して、それを超える大量の取引データが送られ、 1 MB に収まらなかった取引データが次の承認を待つ長蛇の列を形成しているような状況となりました。
加えて、ビットコインの取引データの承認は 10 分に 1 度行われるため、自分の取引データがブロックに取り込まれなかった場合、最低でも 10 分待たなくてはいけません。このため少しでも早く送金しようとする送金者は手数料を高く設定します。手数料の上昇が進み、かつ、送金が完了するまでの時間も長くなるといった悪循環を生み出すことになりました。このように通貨の利用者が増加することで本来の利便性を失ってしまう問題をスケーラビリティー問題と言います。
ビットコインのコミュニティでは以前からスケーラビリティー問題への対策は議論されていましたが、コミュニティ全体の合意を得るには至らず具体的な解決策を打ち出すことはできない状態でした。
このような深刻な事態を受け、従来の利便性を取り戻しより使いやすい通貨の開発を目指したのがビットコインキャッシュです。2017 年 8 月にビットコインからハードフォークしたビットコインキャッシュはブロックサイズを 8 MB に拡大したため、ビットコインが経験した取引手数料の急騰を回避することができました。その後、 2018 年 5 月には 8 MBから 32 MBにブロックサイズが変更されました。
ビットコインの理念を巡る争い
2017 年当時、スケーラビリティー問題に直面し流動性を失ったビットコインは通貨というよりは資産としての性格を強めた投機の対象になっていたといえます。
これに対し、ビットコイン考案者のサトシ・ナカモト氏が記した論文を引用し、ビットコインの本来の目的は通貨として利用されることにあるとする意見がコミュニティ内部で主張されました。その意見に同調したいくつかの開発グループはスケーラビリティー問題を解決するためにビットコインの開発を大きく前進させようとします。これを時期尚早と捉えたのが現在のビットコインの中心的な開発者グループでした。
時期尚早を唱えた開発者の考えは、ビットコインのセキュリティを高めるためにブロックサイズが 1 MBに限定されているのであり、暗号資産(仮想通貨)全体が急騰する不安定な時期にブロックサイズに変更を加えることはむしろ安全性に問題があるとするものでした。
ビットコインの理念的な対立を除き、当時のコミュニティが直面していた問題は、利便性と安全性のどちらを重視するかという究極の選択を迫られていたことにあります。最終的にこの問題はハードフォークという形で収束しました。しかし、後にビットコインキャッシュが真のビットコインであるとする主張がなされ、一般的に認識されているビットコイン(英: Bitcoin、単位: BTC )をビットコインコア(英: Bitcoin Core、単位: BTC )として区別する呼称・表記が見られるなどコミュニティの対立が発生しました。
2018 年 5 月 ハードフォーク
2018 年 5 月にビットコインキャッシュは、ブロックサイズの拡大とスマートコントラクトの実装を行うためにハードフォークを実施しました。このハードフォークではコミュニティの分断を伴うことなく、ビットコインキャッシュのアップグレードが達成されました。
この結果、ブロックサイズを 8 MBから 32 MBへ拡大し、スケーラビリティー問題への対応が強化されました。
2018 年 11 月 ハードフォーク (ハッシュウォー)
2018 年 11 月には、ビットコインキャッシュのコミュニティが分裂するハードフォークが発生しました。ビットコインキャッシュの最大勢力であるビットコイン ABC と、ビットコイン考案者サトシ・ナカモト氏の開発理念( Satoshi Vision )に忠実な通貨の開発を目指すビットコイン SV が開発方針を巡って対立しました。
ビットコイン ABC は中国大手マイニング会社 Bitmain やビットコイン伝道師と呼ばれるロジャー・バー氏らを後ろ盾にビットコインキャッシュで DApps の構築を行えるようにするアップグレードを実行します。しかし、この変更はサトシ・ナカモト氏の開発理念に反するとして対立の姿勢を示したのがビットコイン SV でした。
両陣営で激しい議論が繰り広げられる中、両者の意見が折り合いをつけることはなく、ビットコインキャッシュのブロックチェーンが分岐します。一方はビットコイン ABC の意見が反映されたもので、もう一方はビットコイン SV の意見が反映されたものです。
この二つのチェーンは、どちらがより長いチェーンを形成できるかを競争しました。これは長い方のチェーンに正当性が与えられ、短い方は消滅するというブロックチェーンの意思決定ルールがあるためです。より長くブロックを形成するには、多くのマイナーを集め競争相手に勝るハッシュパワーを獲得する必要があります。ハッシュパワーはブロックの生成に必要な計算能力で、このような競争をハッシュウォーと言います。しかし、ハッシュウォーで決着がつくことはなく、最終的には二つのチェーンがそれぞれ独自の開発を行う結果になり、完全に異なる二つの暗号資産(仮想通貨)が誕生することになりました。
ビットコイン ABC を支持したグループは、ビットコインキャッシュ(単位: BCH )の名前を継承します。一方、ビットコイン SV を支持したグループはビットコイン SV (英: Bitcoin SV、単位: BSV )として新たな通貨をスタートさせました。なお、現在 bitFlyer で取り扱うビットコインキャッシュはビットコイン ABC を中心に支持・開発が行われる暗号資産(仮想通貨)です。
今後の展望
ビットコインキャッシュは通貨としての利便性向上に加え、積極的な普及活動も行われています。地中海に浮かぶ島国キプロスでは、政府関係者や大統領との面会を通してビットコインキャッシュの普及を行ない、中国の決済・チャットアプリの WeChat ではビットコインキャッシュの送金が行えるウォレット機能が追加されるなど、ビットコインキャッシュの経済圏拡大が行われています。