ビットコインの売買や、ビットコインの決済利用を規制する法律は、現在のところありません。また、消費税法上も、ビットコインに係る取引について、特段の規定は設けられていません。そのため、ビットコインの譲渡に係る消費税法上の取扱いは不透明な状況にあります。しかしながら、すでに事実上広範囲に通用している電子的なデータであり、何らかの価値を有する「モノ」として、消費税法上も資産と評価でき、その譲渡は「資産の譲渡等」に該当すると考えられます1。
消費税法は、国内における資産の譲渡、貸付、役務の提供について消費税を課すこととし、これらのうち、課税になじまない一定の取引については非課税の規定を設けています。
通貨や小切手、手形等は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)上の支払手段に該当し、消費税法上は非課税とされています。また、資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」)上の前払式支払手段(電子マネーは通常これに該当)については、消費税法上は物品切手等に該当し非課税とされています。
ビットコインは、通貨と同様に、その価値を認める他人に交付することが原則的な使途であり、それ以外の利用方法は想定しがたいことから、その本質は外為法の支払手段と同等と考えることができます。一方で、ビットコインは法令上明確に定義されていないこともあり、現行の消費税法上の支払手段、物品切手等のいずれにも該当せず、また他の非課税規定のどれにも該当しないと考えられることから、現在は少なくとも非課税として取り扱われることはなく、ビットコインの譲渡が国内で行われた場合には消費税が課されると考えられます。
ビットコインの現行消費税法上の課税関係は、図のようになると考えられます。
資金決済法の改正及びその消費税に対する影響について
情報通信技術の発展に伴う新たなサービスの展開を背景に、サービスの利用者を保護することを目的の一つとして、2010年4月1日より資金決済法が施行されています。資金決済法では、電子マネー等を前払式支払手段と定義し、その発行者に対して、登録や届出を義務づけ、発行保証金の供託等の行為規制や報告書提出、立入検査等の対象としています。
ビットコインの売買は、取引所のように業として行っても現在は資金決済法の対象となりませんが、国内大手取引所の経営破綻や、ビットコインがマネーロンダリングに利用されるという懸念を背景に、ビットコインを「仮想通貨」と定義し、取引所等の仮想通貨の売買や管理(例えば、ユーザーのビットコインのデータをクラウドで保管する等)を業として行う者を、電子マネーの発行者と類似した規制の対象とする資金決済法の改正案が2016年3月4日に国会に提出されています。
一方、欧州では2015年10月22日にEU司法裁判所が、ビットコインは通貨等の支払手段と同様の機能を有するものであり、VATを課すべきではないとの判決を下しています。当該判決を受け、欧州では今後、ビットコインに対しVATは課されない方向で各国VAT法が整備されると考えられ、本邦においてもビットコインは消費税法上非課税とすべきではないかとの議論が、資金決済法の議論とは別に生じています。
ビットコインは、その価値を認める他人に交付することが原則的な使途という本質に着目すれば、他の支払手段と同様に非課税とされるべきものということになります。また、前述の資金決済法の改正の結果、(規制の対象という消極的な文脈ではあるものの)ビットコインその他の仮想通貨が法令上定義され、認識されることは、仮想通貨を消費税法非課税として取り扱うための解釈変更や、税制改正による仮想通貨に係る新たな非課税規定の創設への追い風になり得るものといえます。
しかしながら、ビットコインを消費税法上非課税とするための議論の前提となる、ビットコインその他の仮想通貨への理解は、前述のように頻繁に電子マネーとも混同されている状況を踏まえると、未だ十分とはいい難いものと思われます。また、仮に理解が進んだとしても、ビットコインの通用力はあくまでも事実上のものであり2、法律上の強制通用力を有する支払手段とは消費税法上も取扱いに差異を設けるべきとの考え方も成り立たないわけではないことから、非課税としての取扱いが将来的に実現するかどうかは、未だ見通せない部分が多いといえます。
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