野口悠紀雄教授
野口現在ビットコインは必ずしも普通の人が使えるような決済手段ではない。まだ初期の段階ですね。例えば秘密鍵を保持するのは自分の責任ですが、それは、普通の人には難しい。非常に荒削りの通貨です。その上、価格変動が大きく、価値の保存手段としては問題がある。従って、実際の店舗でこれを受け入れているところは非常に少ない。
加納裕三氏(以下、加納)確かに使いづらい。ビットコインというのはデフレ通貨と呼ばれていて、そもそも通貨の安定、ボラティリティ縮小を考慮して設計されていない。それはあきらめるしかないと思っています。その代わり必要であれば別のサービスで安定化させることも可能。例えばビットコインの貸し出しを始めれば、それでまたイールドカーブが形成される。それにより信用創造が始まり、取引が増えれば価格が安定する可能性がある。
小宮山峰史氏(以下、小宮山)スマホでもっと払えればいいと思いますよね。弊社としてはそういうものをつくろうとしている。スマホの中にビットコインが入っていて、払うときに外せばいいと。
野口その他、利用者にとってペイメントのコストの問題がある。ビットコインはコストが低いと言われているが、非常に低額の取引に関してはそうではない。本来の使い道はマイクロペイメントだと思っている。
ビットコインをユーザーが直接使おうとするからその問題がある。中間に何かがあってよいと思う。取引をまとめることによって、コストを低下させ、変動を安定化させることは十分可能なはず。
加納裕三氏
加納我々がまさしく(取り組んでいるプロジェクトに)、サイドチェーンという概念で、一端取引をまとめ、一日に数回、ビットコインで決済を行う、ということを将来考えていまして。
ここはオフブロックで、ただしこの取引のサマリーのハッシュみたいなのをブロックチェーンに書いておいて後で決済する。取引が増えていくと今のブロックチェーンだと耐えられないと思うんですよ。
小宮山bitWireというサービスでは、ブロックチェーンと関係ない世界でトレードし、最後の最後で決済をする。これは既に実用化している。
野口その問題を解決していただき、本当のマイクロペイメントが誰にでもできるような世界を作っていただきたい。
加納私たちの応用例ではSECOMとかのセキュリティ会社でモニターいっぱいをみている人がいる、と。これは外注で良いと思うのですよ。例えばインドの方に見てもらって問題があったらボタンを押してもらう。そうしたら日本の人が見る。時給100円で、月給が一万円になるのですが、十分暮らしていける。でも一万円送るのに今は最低でも4000円払わないといけない。新しいマーケットを生み出す事ができると思う。数千円から数万円の送金のところに大きな仕事があると感じるのです。
野口ITの世界で人間にしかできないところがある。外注できることが色々ある。でもそのためにはペイメントが必要。サービスのみならず貿易の面でもそう。例えば、フィリピンでものを作っている会社があるが、輸出しても輸出代金を回収する手段がない。アジアの大部分の国では銀行のシステムが普及しておらず、銀行振替ができない。だからお金を受け取る手段がない。お金を受け取る手段ができれば、アジア諸国の貿易と工業化が急激に進む可能性がある。これはビットコインの将来の非常に有望な発展先だと思う。
加納インフラが未成熟というのが、我々にとっては非常に魅力的。もともと固定電話がないところにいきなり携帯が入っていく、という感じで。インドネシアとか、国民所得が月収1万5千円くらいのところでは、ビットコインが意外とはやっている。銀行のインフラもない、クレジットカードももちろんありません、やっぱりなかなか所得があがらないところで流行るのでは、と期待がある。
野口銀行のインフラがないというのは、日本ではあまり認識がない。アフリカのケニヤで、農村地域にいくと銀行がないから支払いをするためにはバスにのって一日かけ、銀行支店で一日行列に並ばないといけないところで、エムペサという携帯電話で送金できるシステムが導入されたら、一挙に広まった。ブランチバンキングが普及していない国は圧倒的に多い。携帯電話が固定電話をジャンプしたような、蛙飛びの発展が金融に起こる可能性は十分にあると思う。全く新しい需要をいくらでも掘り起こせる。
Mt.Goxの影響で、日本ではビットコインはイメージが悪い。ビットコインの信頼性を高める措置が必要。Mt.Goxのような組織が破綻するまで放置され、なんの措置もなされなかった。
加納Mt.Goxの破綻を受け、自民党の中間報告に基づき、JADA(日本価値記録事業者協会、現JBA=日本ブロックチェーン協会)という自主規制組織をつくった。私が代表をつとめ、5社が加盟している。官庁が直接法で規制することをやめることになったのは、マーケットが小さく、いままでの枠組みに入れるのは無理があるから。第3の新しいイノベーションなので、まずはいったん事業者がMt.Goxをうけてある程度ガイドラインを整備し、自主規制のルールをつくり、それに従うことになった。Know Your Customerレベルで。これで完璧だとは思わない。だが、日本では立法するのに時間が必要でもあり、JADAでやってください、というのが立て付けなので。
野口私はこういうところに政府が出てくるのはあまり望ましいことだとは思わない。自主規制で信頼性が確立されるのは大変重要だと思う。
加納その中で、倒産リスクが隔離されているか。例えばbitFlyerは監査法人に監査してもらい、本当にこれだけ残高があるか確認してもらう。だが、小さい会社だとなかなかそれができない。
そうなると顧客に担保できるのは、法の枠組みではなく、顧客にちゃんとルールを説明し、倒産リスクを説明して、最悪はこんな風になります、と。ただし、セキュリティはこうしています、と。責任義務を果たしたい、と。
野口Mt.Goxのとき、損害を受けた人が多かった。あれは理解し難いこと。秘密鍵をMt.Goxが管理していたと想像するが?
加納銀行方式とウォレット方式、と二つの概念があると僕は思っています。ウォレット方式はプライベートキー(秘密鍵)をユーザーさんが持っていて、紛失損等は全てユーザーさんの責任。銀行方式はあくまで残高を帳簿として総勘定元帳で持っていて、ウォレットにあるビットコイン自体は我々が管理する。つまり金庫も我々が管理する。当然、無くすことはないので、本人確認ができれば復元できる。ただし、総額だけは預かっておいて、それはレジャーで管理する。
野口そうすると倒産の危険が発生する。私はそれがいいのかどうか疑問に思っている。本来はウォレット方式であるべきだと思っていますが、秘密鍵の管理を個人が行うのはかなり難しい面がある。どちらがいいか、その二つの問題のバランスなんですよね、きっと。
加納bitFlyerは両方を提供しようとしている。銀行方式とウォレットは一長一短ある。倒産リスクと秘密鍵の管理。私の知人でウォレットにいれて、秘密鍵をなくして3000万円分のビットコインを無くした人がいる。非常に危ない。
小宮山私も最初につくったウォレットはなくしています。
加納私もなくしている。3万円ほど。
これを両方提供してユーザーが選べればいいと思います。そのときに十分そのリスクを説明して。慎重な人はウォレットでやるし。面倒くさい人は会社を信頼してもらって。